80、カートレイン(スイス)7

名残惜しいマッターホルンを後にしてシンデレラ城のモデルになった「ノイシュバンシュタイン城」へ向かうことにした。スイスの西にあるツェルマットからインターラーケンを経て、東のリヒテンシュタインを抜けていくルートでワインディングが大好きな僕には楽しい時間になった。

グーグルマップでルートを検索して移動していくと、突然ここで「列車に乗る」とグーグルマップから指示された。バイク移動しているのに列車に乗るなんてありえないので無視して先へ進むとどうしても列車に乗って移動しろと引き返す道を指示してくる。一旦路肩へ止めて、いつのまにか列車移動のボタンを押してしまったのかとスマホを調べてみたが、キチンと車移動になっている。さらに今進んでいる道も途中で行き止まりになっている。

悩みながら列車移動の指示されたポイントへ戻って、駅の入口にある看板を見て初めて意味がわかった。

列車に車が乗っている・・・。

フェリーに車を乗せたことはあっても列車に車を乗せたことはないのでかなり驚いた。車移動の次は列車移動となんの感情もなくクールに指示するグーグル・マップは、ロールプレイングゲームで秘密の移動手段の謎を解いたような感動がある。

このカートレインはインターラーケンからツェルマットまでを迂回せずにアルプス山脈を長いトンネルをつないで一直線に来ることができる有名な列車だった。特に冬場などは雪の積もった危険な山道を移動せずに、車ごとスキー場やリゾート地へ一気にこれるのでイージー&クリーンを目指すスイスらしい移動手段だ。スイス側(ゴッペンシュタイン駅)からドイツ側(カンデルシュテーク駅)の15キロのトンネルで結んでいる。

駅で料金を払い、待機所で待っていると貨物列車のような軍用列車のような変わった列車が入ってきた。

係員の誘導でちょうどフェリーに乗るように車が続々と列車に乗っていく。バスは大きいので切り返しをしながら列車に乗っていく。

かなりの台数がどんどん乗っていく。乗ったらエンジンを切ってサイドブレーキを引く。エンジンが切れるのでエアコンが効かなくなってしまう。夏場は暑いかも。s一番最後に来た運転のへたなドライバーがなかなか乗ることができず何度も切り返しをしていると、さすがに係員もあきれたのか次の列車を待つように指示していた。

 

ある程度積み終わったところでバイクも誘導された。僕の他にいた2台のバイクはよく知っているようで、貨車にすんなり乗っていく。一番最後に乗り込んだらエンジンを切ってスタンドを立てるだけでフェリーのようにロープで固定するわけではなさそうだった。カーブで揺れたらどうしようと隣のライダーに聞いたら体で抑えろと言われて笑ってしまった。

 

時間になり出発したのでドアを半開きにして覗いたら、アルプスを左右に見ながら走っていて、ドラクエの移動みたいでワクワクした。

初カートレイン体験だったが、合理的でいい運送方法だなと思った。日本の廃線になりそうな路線をカートレインにしたら観光の目玉になりそうだった。

スイスのどうすれば観光客が来てもらえるかを細部まで考えて実行しているのはさすがだった。景観を壊すような高層の建物はホテルといえども一切作らせず、道路だけでなく側道や道路沿いの民家の周りまでも徹底的に掃除させて、クリーンで美しいリゾート地を演出していた。道路も安全だけどスリルを味わせるレイアウトになっていて、いかにも山岳ルートを攻略したみたいな作りがいい感じだった。

先日、日本の南アルプスをバイクでツーリングしたが、立派な山岳道路があって途中には神秘的な湖があって、スイスと近いロケーションなのにその出来栄えは全く違っていた。日本の場合は、駅と温泉、都市と観光地のように、点と点で結んで到着地のみが楽しい場所となっていて、その道中はどうでもいい(単なる移動)になっているのに対して、スイスはその道中こそが観光の基本ベースになると考えているところがうまいなと思った。人は旅行を目的地だけでなく、その道中も含めた全体点で評価している感じがした。日本の廃れてしまった昭和の観光地を道中を含めて「移動を楽しいものにする」をテーマにリニューアルするのもよさそうな気がした。