クロアチアの半島ツーリングは伊豆スカイラインを走っているような錯覚をおこす。道幅といい路面状態や景色が日本に似ていてホッとするツーリングだった。右回りにぐるっと1週して半島の左側までくればスロベニアに入国し、その後30分ほど走るともうイタリアだ。イタリアはまずはここから近いベネチアを目指すことにした。
スロベニアからクロアチアへの入国があまりに簡単だったので、出国も同じだと勝手に考えていたらEU圏への入国は違っていた。荷物もきちんと税関検査され、パスポートも念入りにチェックされた。パスポートチェックの際に係員と話しながら笑顔で返却を受けたので、そのまま出国して数十m先の駐車場で荷物の整理をしていた。すると突然、鬼の形相した係員が大声を出しながら近づいてきた。あまりに怖いので、荷物の整理が終わっていたのでこのまま無視して走り出そうかと一瞬思ったが、とりあえず係員についていくことにした。すると再度パスポートを出せと要求されるので嫌な予感がしながらもおとなしく係員に渡した。
管理小屋の中では先程のパスポートチェックの係員と呼び止めた係員が盛大に言い合っている。こっちはわけが分からずバイクに跨ったまま待っていると、呼び止めた係員が近づいてきてパスポートを無造作に返却すると顎で行けという指示。意味不明で首をひねっているとパスポートを開いてスタンプのところを指差している。さっきの係員がおしゃべりに気を取られて出国のスタンプを押し忘れていたらしい。言い合っているように見えたのは上司が部下をどやしつけていたらしい。このまま移動していたら不法入国になるところだった。こんなこともあるのかと驚いたが、パスポートチェックの係員はこちらをチラッと見て首をすくめて終わりだった。次からは必ずスタンプがあるかどうか確認しないと大変なことになるといういい経験だった。
ところでクロアチア→スロベニア→イタリアはたったの18キロしかない。30分も走るとイタリアだった。イタリア国境は看板ひとつだったので、見逃す所だった。国境からイタリアの北端にあるベネチアまでも80キロ程度だ。下道をのんびり走っても2時間で着く。ベネチアは昔来た時はすごく感動した。街全体が海に浸かっているなんてなんて幻想的なんだろうと思った。その時はミラノから電車で行ったのだが今回はアドリア海を左に眺めながらベネチアを目指した。
移動中、運転の荒いことで有名なイタリア人、のんびりした東欧とは全然違う。割り込み、追い越し、煽りは普通にある。全体的にセッカチで流れに乗れない車は肩身が狭い。他の国では皆バイクに優しかったがここではそんなことはない。バイク同士の連携もなく、リッターバイクでもスクーターにがんがん煽られる。初心者だからとか老人だからというのはあまりなく、速い車か遅い車かだけが基準らしい。なので、女性も老人も初心者もビシバシ飛ばす。トラックだから100km/h走行というのはなく、全員がとりあえず持てる力を全部使って飛ばす。スピード好きの人ならイタリアは楽しいかもと思ったくらい。道幅もそんなに広くないのでスピード感がある。
運転が上手いのかと言われるとそうでもなく、僕を煽って追い越していったスクーターは5分後に地元のSUVのお尻に突っ込んで全損になった愛車を見ながら泣きべそをかいていた。イタリア人は喜怒哀楽が激しくて面白い。地元の車とちょっとしたカーチェイスをしながら走っているとあっというまにベネチアに着いた。